約100年の時を越えて。広島から受け継がれた一着を、成人式へ
本日、一枚のとても美しい着物をお持ちいただきました。
黒地に大きく描かれた松や紅葉、牡丹、菊。
金彩も随所に施され、近くで見るほど、その仕事の細かさと迫力に目を奪われます。
お話を伺うと、この着物は約100年以上前のもの。
広島のひいおばあ様から、代々受け継がれてきた一着だそうです。
そして今回、
「来年の成人式に、娘にこの着物を着せてあげたい」
というお母様のご相談で、ちとせやへお持ちいただきました。
ただ、長い年月を重ねてきた着物です。
裏地には破れている部分があり、刺繍にもほどけが見られます。
生地そのものも非常に繊細な状態で、簡単なお直しで済むものではありませんでした。
それでもお母様には、どうしてもこの着物を娘さんへつなぎたいという思いがありました。
その理由を伺い、私たちもこの一着を見る目が変わりました。
お客様のお話では、この着物は広島で原爆の被害を受けた時代を越え、その後の混乱した時代も失われることなく、ご家族のもとに残り続けたものだそうです。
戦争を越え、時代を越え、
ひいおばあ様から次の世代へ。
そして今度は、成人式を迎える娘さんへ。
着物そのものの価値だけではなく、ご家族の記憶や思いまで一緒に受け継がれてきた一着なのだと思います。
正直なところ、これほどの着物を目にする機会は、私たちにとっても決して多くありません。
柄の素晴らしさ。
仕事の細かさ。
そして100年近い時間を経ても、これだけの美しさが残っていること。
お客様にお願いをして写真を撮らせていただき、今回、掲載についてもご了承をいただきました。
そして、もう一つ不思議なご縁を感じたことがあります。
昨日、8月6日は広島の原爆の日でした。
ちょうど昨日、広島出身の方と当時のお話をする機会があり、戦争や広島についていろいろと考えていたところでした。
その翌日に、今度は広島から長い時間をかけて受け継がれてきた、この着物が店にやってきました。
偶然なのだと思います。
けれど、二日続けて広島の歴史に触れることになり、いろいろなことを考えさせられました。
私たちが今回できることは、この着物の歴史を語ることではなく、
「次の成人式で、もう一度きちんと着てもらえる状態にすること」
です。
100年以上前にこの着物を作った職人さんは、まさか令和の時代になって、ひ孫、その先の世代が成人式で袖を通そうとしているとは想像していなかったかもしれません。
だからこそ、できる限り手を尽くしたいと思っています。
生地の状態を見極めながら、裏地や刺繍を一つひとつ確認し、無理をさせず、それでも美しく着られる状態へ。
新品に戻すことが目的ではありません。
これまでこの着物が歩んできた時間を残したまま、
もう一度、人が袖を通せる着物にする。
それが今回の私たちの仕事だと思っています。
来年の成人式。
この着物をまとった娘さんを見たとき、お母様がどんなお気持ちになるのか。
その日を想像しながら、私たちも大切にお手入れを進めていきます。
一枚の着物が、100年を越えて家族をつないでいく。
着物に携わる仕事をしている意味を、改めて考えさせていただいた一着です。
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